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研究紹介

私たちはがんの分子・生物学的基礎研究を基盤とし、理工学や薬学などの異分野研究者との協力を通じて、革新的な抗がん医薬の開発に取り組んでいます。その軸としているのが、がんの標的分子を特異的に発現抑制する抗がんsiRNA医薬の開発です。

この分野では、配列設計やドラッグデリバリーシステムなど多くの課題がありましたが、共同研究を通じてこれらを克服し、First in Humanの治験に繋げました。また、複数の標的分子を同時に抑制可能な革新的なマルチターゲット型siRNA医薬の開発にも着手しています。さらに、幅広いがん種で課題となっている薬剤耐性機序の解明や、KRAS変異がんに対する新しい治療法の開発を行い、前任の矢野聖二教授の研究を継承しています。同時に、CAR-Tなどの先進的な免疫細胞療法や、分子間相互作用を基盤とする低・中分子スクリーニング系の構築など、次世代治療法の開発へと拡大しています。

これらの研究は、基礎研究で得られた知見を患者さんに迅速に還元するトランスレーショナルリサーチを中心に展開しており、医師と基礎研究者が一体となって、がん克服に向けた包括的なアプローチを実践しています。

1. 抗がん siRNA 医薬 (PRDM14) とドラッグデリバリーシステム (uPIC) による in vivo 治療モデル

抗がん siRNA 医薬 (PRDM14) とドラッグデリバリーシステム (uPIC) による in vivo 治療モデル

PRDM14は乳がん、膵がん、肺腺がんなどで腫瘍特異的に発現する核内転写因子であり、卵巣がんの多くの組織型でも発現が確認されています。また、PRDM14高発現は予後不良因子である可能性が示唆されました。本研究では、PRDM14を標的としたsiRNA治療法を開発し、乳がんマウスモデルでDTX併用治療により高い腫瘍抑制効果を確認しました。さらに、トリプルネガティブ乳がんを対象とした第I相試験(PRDM14Breast-01)では、安全性が確認され、長期的な病勢安定(SD)が認められました。これらの成果を基に、siRNA医薬を用いたがん治療の臨床応用を目指しています。

2. KRAS 変異肺癌に対する KRAS 阻害薬と WEE1 阻害薬の新規併用療法の開発

KRAS 変異肺癌に対する KRAS 阻害薬と WEE1 阻害薬の新規併用療法の開発

肺がんは日本で最も死亡率が高く、日本人肺腺がん患者の約10%でKRAS遺伝子変異が確認されています。最近、KRAS-G12C変異に特異的な阻害薬が承認されましたが、効果が限定的で薬剤耐性が課題となっています。本研究では,KRAS変異肺がんにおいて,746種類の遺伝子を破壊する実験により、新しい治療標的としてWEE1を同定しました。さらに TP53変異が共存している KRAS-G12C肺がんに対して,WEE1 阻害薬とKRAS-G12C 阻害薬の併用により,がん細胞をほぼ消失させる効果を確認しました。この治療法は,KRAS阻害薬単独での効果の乏しい患者に新たな治療選択肢を提供し,生存率向上に貢献することが期待されます。現在、臨床応用に向けた研究を進めています。

3. KRAS 変異がんに対する SUMO 化阻害薬と MEK 阻害薬の新規併用療法の開発

KRAS 変異がんに対する SUMO 化阻害薬と MEK 阻害薬の新規併用療法の開発

KRAS変異は、がん種横断的に最も頻度の高いがん遺伝子異常の一つとして知られています。KRAS変異に対する特異的治療薬の臨床開発が盛んになってきましたが、初期耐性・獲得耐性の問題が明らかになってきています。本研究では、ユビキチン様タンパク質であるSUMOというエピゲノムに着目し、SUMO化経路の阻害薬が特にMYCを発現するKRAS変異がんに有効であることを明らかにしました。さらに、KRASの下流シグナルであるMEKを同時に阻害することで、がん細胞へのダメージを与えると同時に周囲の免疫細胞を活性化し、顕著な抗腫瘍効果を導き出すことを確認しました。このような複合的な作用により、がんを撲滅する新規治療法を研究しています。

4. GSK3βを標的としたがん治療法の開発

GSK3βを標的としたがん治療法の開発

GSK3βはセリン・スレオニンキナーゼとして知られる蛋白質で、従来はWnt/β-catenin経路における作用から、がん抑制的に機能すると考えられていました。しかし、この十数年の間で、多くの癌種でGSK3βが高発現・高活性化されており、がん促進的に働くという報告が増えています。これまでの研究で、がん細胞の浸潤や抗がん剤獲得耐性といった悪性形質や異常な糖・エネルギー代謝(ワールブルグ効果)にGSK3βが作用しており、その阻害によって抗がん作用を示すことを見つけました。現在、GSK3βを標的としたがん治療法の開発に向けて、分子基盤の構築とGSK3β阻害剤の開発を進めています。