PEOPLE-J/VICTORY-J
PEOPLE-J/VICTORY-Jについて
私たちの教室では、多施設共同研究としてPEOPLE-JとVICTORY-Jに取り組んでいます。
この研究は、厚生労働科学研究費補助金(創薬基盤推進研究事業)の支援を受けて行っています。
研究の背景:肺がんは、わが国の悪性新生物による死亡数第1位の疾患ですが、日本人の場合肺がんの4人に1人に上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異(以下EGFR変異)が認められ、EGFR変異のある肺がんにはゲフィチニブやエルロチニブなどのEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)が著効します。しかし、最近になって、EGFR変異のある肺がんでもEGFR-TKIが効きにくい体質があることがわかってきました1)。
EGFR-TKIが効きにくい体質というのは、BIM遺伝子の多型(100人に1人以上の頻度で見られる遺伝子異常)です。BIM遺伝子多型がある患者さんでは、EGFR-TKIで治療してもがん細胞にアポトーシスが起こりにくく、がん細胞が死にません。したがって、EGFR-TKIに耐性になると考えられています。
私たちの教室では、ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬であるボリノスタット(リンパ腫に対し承認済みの薬)を併用すると、BIM遺伝子多型があってもEGFR-TKIが効きやすくなることを発見しました2)。
PEPOLE-Jの目的
EGFR変異のある肺がん患者さん400人においてBIM遺伝子多型の有無を解析し、BIM遺伝子多型のある人とない人の肺がんの臨床的特徴を明らかにします。
VICTORY-Jの目的
すでに抗がん剤やEGFR-TKI治療を受け、それらの治療が効かなくなったBIM遺伝子多型陽性のEGFR変異肺がん患者さんに、ゲフィチニブとボリノスタットを併用する治療を受けていただき、治療の安全性を明らかにします。VICTORY-Jは、第1相の医師主導治験です。
参考文献
1. Ng KP, Hillmer AM, Chuah CT, et al. common BIM deletion polymorphism mediates intrinsic resistance and inferior responses to tyrosine kinase inhibitors in cancer. Nat. Med., 2012; 18,521-28.
2. Nakagawa T, Takeuchi S, Yamada T, et al. EGFR-TKI resistance due to BIM polymorphism can be circumvented in combination with HDAC inhibition. Cancer Res. 2013;73:2428-34.