私達の教室では、RET融合遺伝子を有する肺癌に対する新たな治療薬の開発を目的として、多施設共同医師主導治験として、ALL-RET試験を実施しています。この試験は、日本医療研究開発機構研究費(革新的がん医療実用化推進研究事業)の助成を受けて行っています。
【研究の背景】これまでに、肺癌において治療標的となる遺伝子異常がいくつか同定されています。例えば、EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子を有する肺癌に対しては、EGFR及びALKのチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI、ALK-TKI)が高い有効性を示すことが明らかとなり、治療薬が本邦でも承認されて、一般臨床でも使用されています。このような中、2012年にRET融合遺伝子が肺癌の新たな治療標的となり得ることが報告されました1-2)。RET融合遺伝子を有する肺癌(以下、RET肺癌)は、肺腺癌の1〜2%に存在することが明らかとなっています。本邦での推定患者数は年間1500人程度の稀少癌であり、このRETを標的とした治療薬はRET肺癌において承認されていません。一方で、アレクチニブ(CH5424802)という治療薬は、2014年7月にALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌(以下、ALK肺癌)に対してアレセンサ®として本邦で承認されたチロシンキナーゼ阻害薬ですが、ALK活性を強力に阻害すると同時に、RET阻害活性も示すことが明らかとなっています3)。さらに、ALK肺癌を対象とした臨床試験では副作用が比較的軽度であったこと4)、基礎研究において他のRET阻害薬が効きにくい一部のRET肺癌に対しても有効性が示唆されたこと3)、などからRET肺癌の治療薬として有望であると考え、本治験を計画しました。
【対象】RET融合遺伝子を有する進行非小細胞肺癌患者さん
※RET融合遺伝子の有無は、肺癌の遺伝子異常を調べる研究<LC-SCRUM-Japan>(
http://epoc.ncc.go.jp/scrum/lc_scrum/)で検査を受けることができます。当科も研究に参加しておりますので、お問い合わせください。
【治療】アレクチニブ(CH5424802)カプセルを1日2回朝夕食後に連日内服して頂きます。
本治験は
ステップ1と
ステップ2という2つの段階に分かれています。
【ステップ1の目的】どのような副作用がどのくらいの頻度で発生するかを調べ、治療に適したアレクチニブの用量を決定します。
【ステップ2の目的】ステップ1で決定した用量における、RET肺癌に対する効果と副作用を調べます。
治療実施施設は、金沢大学附属病院、名古屋大学医学部附属病院、国立がん研究センター東病院、がん研有明病院、兵庫県立がんセンター、岡山大学病院、九州がんセンターです。
参考文献1. Kohno T, et al: KIF5B-RET fusions in lung adenocarcinoma. Nat Med 18(3): 375-377, 2012.
2. Takeuchi K, et al: RET, ROS1 and ALK fusions in lung cancer. Nat Med 18(3): 378-381, 2012.
3. Kodama, T, et al: Alectinib shows potent antitumor activity against RET-rearranged non-small cell lung cancer. Mol Cancer Ther 13(12): 2910-2918, 2014.
4. Seto, T, et al: CH5424802 (RO5424802) for patients with ALK-rearranged advanced non-small-cell lung cancer (AF-001JP study): a single-arm, open-label, phase 1-2 study. Lancet Oncol 14(7): 590-598. 2013.