現在行っている臨床研究について
PI3KAKTmTOR経路の遺伝子変異を含む稀な遺伝子異常を有する小細胞肺癌の臨床病理学的、分子生物学的特徴を明らかにするための前向き観察研究
研究概要
研究対象:
1) 病理学的(組織診、細胞診は問わない)に小細胞肺癌の診断が得られている。
2) 登録時の臨床病期がV期以上(手術不能かつ根治的放射線療法が不可能)または術後再発である。
3) 遺伝子解析が可能な検体が過去に採取され、保存されている、または、2週間以内に採取予定である。
4) 本研究に関して、患者本人から文書で同意を得ている。
肺小細胞癌におけるがん関連遺伝子変異の多施設共同研究 LC-SCRUMに参加され、情報の二次利用と検体の二次利用のどちらにも同意された方を対象としています。本研究ではすでに採取された肺がんの手術標本もしくは生検組織と腫瘍組織から抽出したDNAならびにRNAを対象とします。
1. 研究の意義
PI3K/AKT/mTOR経路の遺伝子変異は、これまでに大腸がんや乳がんなどの様々ながんにおいて認められていますが、近年、肺がんにおいても、PI3K/AKT/mTOR経路の遺伝子変異が認められることがわかってきました。肺がんにおけるPI3K/AKT/mTOR経路の遺伝子変異は、基礎研究で、特に小細胞肺がんにおいて、腫瘍形成に重要な役割を担っている可能性が示されています。小細胞肺がんは、肺がん全体の約15%を占めます。その中でも、PI3K/AKT/mTOR経路の遺伝子変異は、小細胞肺がんの約10-15%に認められます。単純計算ではPI3K/AKT/mTOR経路の遺伝子変異を有する小細胞肺がんは、全肺がんの2%程度の頻度となり、希少頻度の肺がんと考えられます。この遺伝子変異が発生する原因は明らかになっていませんが、遺伝子異常が起きた細胞は増殖が盛んになり、がん細胞に変化していきます。 小細胞肺がんにおいてPI3K/AKT/mTOR経路の遺伝子変異は発見されてまだ間もなく、またこの遺伝子変化を持つ肺がんは少数であることから、 PI3K/AKT/mTOR経路の遺伝子変異陽性の肺がんの特徴については明らかになっていません。現在、複数の製薬企業においてPI3K/AKT/mTOR経路の治療薬が開発されており、この薬剤がPI3K/AKT/mTOR経路の遺伝子変異陽性肺がんに有効であることが基礎研究で示され、今後の有望な治療法として期待されています。このようながPI3K/AKT/mTOR経路の遺伝子変異を認める小細胞肺がんでは、遺伝子変異を認めない小細胞肺がんと異なる特徴を持つ可能性が考えられます。遺伝子変異の原因を特定するためにも、また、 PI3K/AKT/mTOR経路の治療薬のような今後有望と考えられる治療法を開発していく上でも、遺伝子変異陽性例を見つけ、性別、年齢、喫煙歴など臨床背景に関する特徴や、様々な治療法による効果、予後について検討するとともに、この肺がんの組織や細胞を顕微鏡で観察し、どのような特徴を持つ肺がんなのか、また、遺伝子解析の結果に基づき、その他の様々な遺伝子とどのような関係にあるのかなど、その特徴を調べることは重要と考えられます。
遺伝子異常の発生頻度が低い肺がんを見つけ出すためには、少数の病院で遺伝子検査を行っていても、なかなか発見は困難であるため、全国規模で遺伝子を調べる必要があります。この研究では、非常に稀なPI3K/AKT/mTOR経路の遺伝子変異陽性の肺がんを全国から特定し、その特徴を明らかにすることを目的としており、もし、 PI3K/AKT/mTOR経路の遺伝子変異陽性の肺がんと判明した際には、並行して進行している新しい治療薬の臨床試験に登録して治療を受けられる可能性があります。更に、この研究では、 PI3K/AKT/mTOR経路の遺伝子変異以外の様々な遺伝子異常についても同時に調べるため、その他の多種類の遺伝子異常を有する肺がんを特定することも可能になります。 PI3K/AKT/mTOR経路の遺伝子変異陽性の肺がんと同じように、それ以外の多種類の遺伝子異常を有する肺がんを特定し、その特徴を明らかにすることも、この研究の目的になります。もし、あなたの肺がんに何らかの遺伝子異常を認めた場合には、その遺伝子異常を対象とした治療薬の臨床試験が進行中である場合には、試験へ登録して治療を受けられる可能性があります。ただし、臨床試験に登録するためには様々な規準があるため、遺伝子が陽性であっても登録出来ないことがあることはご理解下さい。
2. 目的
肺がんのがん関連遺伝子異常のプロファイリングを行う研究であるLC-SCRUMへ参加した施設から提出された臨床検体の遺伝子解析の結果に基づいて、PI3K/AKT/mTOR経路の遺伝子変異陽性小細胞肺癌を特定し、その臨床病理学的、分子生物学的特徴を明らかにします。更に、同時に測定する複数の体細胞遺伝子変化に関しても、遺伝子変化を有する小細胞肺癌を特定し、その臨床病理学的、分子生物学的特徴を明らかにすることも目的としております。
3. 方法
本研究は、採取された手術標本もしくは生検組織と、これらの腫瘍組織から抽出したDNAならびにRNAを解析します。すでにLC-SCRUMにおいて収集している検体を利用しますので検体を新たに採取することはありません。
4 . 個人情報保護に関する配慮
本研究で対象となる手術標本もしくは生検組織や、これらから抽出したDNAならびにRNAは本研究専用に別途割り当てられた登録番号を用いて管理しますので、研究の結果が公表される場合でもいかなる個人情報も院外に出ることはありません。その他本研究に関してお聞きになりたいことがありましたら、いつでも下記の連絡先まで申し出てください。また、このホームページにおいて研究について公開し、問い合わせ等に応じます。患者さんからのご希望があれば、その方の臨床データや検体は研究に利用しないように配慮いたします。また、本研究では検体の残りは発生しない予定ですが、万一発生した場合は、個人情報が分からないようにして厳重に保管されます。
5. 照会先および研究への利用を拒否する場合の連絡先:
〒920-0934 石川県金沢市宝町13-1
金沢大学がん高度先進治療センター 谷本 梓(たにもと あずさ)
TEL: 076-265-2794/FAX: 076-234-4524
【代表研究機関】
〒277-8577 千葉県柏市柏の葉6-5-1
国立がん研究センター東病院 呼吸器内科 後藤 功一
TEL: 04-7133-1111/ FAX: 04-7131-9960