2)網羅的遺伝子解析による転移関連因子の探索

 DNAマイクロアレイによる網羅的遺伝子解析やプロテオミクスによる網羅的蛋白解析が可能となり、2002年頃より癌の遠隔転移・再発に関係する遺伝子発現パターンが同定され、独立した予後因子となりうることが相次いで報告された。

さらに、臓器親和性の異なる高転移細胞株を複数作成し、低転移性の親株と遺伝子発現パターンを比較することで臓器特異的転移関連因子が同定されてきている。骨転移や肺転移に関与する報告では、親株に複数の遺伝子を導入して初めて臓器特異的転移能が獲得されることが示され、癌は複数の形質変化により転移能を獲得することが改めて示されたといえよう。

 



今後の展望

近年の分子生物学的手法の進歩により転移の複雑な分子機構も徐々に解明されてきている。しかし、転移は連続する複数のステップを全てクリアした細胞のみが成し遂げられる現象であり、個々のステップだけに絞ったin vitro解析のみでは転移の全貌を把握することは不可能である。したがって、転移研究を行うにあたりin vivoモデルにおける解析が必要不可欠であることを強調したい。また、従来は癌細胞のみを標的に癌治療がなされてきたきらいがあるが、転移は癌細胞と宿主正常細胞の相互反応の上に制御されているため、癌細胞側因子だけでなく宿主細胞側因子も転移治療の標的となりうる。既に、破骨細胞機能を阻害するビスフォスフォネートの抗骨転移作用や血管新生阻害薬の抗腫瘍効果が確立されつつあり、今後さらに有効な抗転移薬が開発されることを期待される。